第1号
お酒の後にはそばを。
お酒を飲んだ後、ちょっとお茶漬けでもと思う方も多いはず。でもそんな時こそ、そばをお勧めしたいのです。そばには肝硬変やがん発生防止に役立つといわれているビタミンB群のひとつ、コリンが含まれているからです。他にも毛細血管の弾力を守り、出血を防ぐ効果のあるルチンや、良質のタンパク質など、栄養食品と呼ぶにふさわしい栄養に満ちているのです。また、そばの持つタンパク質には、水溶性のものが多く、この点から言えば、そばの後の楽しみ・そば湯にも充分に栄養があります。よく落語などで、遊び帰りの寒い夜、屋台でそばをすする江戸人が出てきますが、なかなか正しい栄養管理だったわけですね。

句や歌の中のそば(一)
「信州信濃の新そばよりも、わたしゃあなたのそばが良い」という盆踊り唄、聞いた覚えのある方もおありでしょう。これは名物にひっかけた戯れ唄ですが、そばとつき合いの長い日本人のこと、多くの俳句や歌が、そばを題材にして詠まれているのです。例えば「信濃では月と仏とおらがそば。」信濃の名物をうまく詠みこんだ一茶の句として有名ですが、実は嘘。正しくは、「そば時や月の信濃の善光寺」が一茶の作です。この句をもとに、一茶の「おらが春」をもじって、後の人が信州そばのPR用キャッチフレーズとして作られたものが前者だと言われています。他にも多くの俳句や歌があるのですが、それはまた、次の機会に御紹介しましょう。

そばのおいしい食べ方は?
臨終ちかい江戸っ子に、思い残したことはないか?と聞いたら、「いっぺん、そばをつゆにたっぷりつけて食いたかった。」おなじみの小咄ですね。確かにそばは、全部つゆに浸さないのが粋とされていますが、これには立派な理由があるのです。それはそばの香り。全部つけてしまうと、舌はまっ先につゆの味だけを感じてしまい、せっかくのそば本来の香りは味わえなくなってしまうのです。だから通は、ひと口分を箸でとったら、半分位だけつゆにつけてツツツっといくわけですね。ちなみに、つゆをそば猪口に注ぐ時は、いっぺんに注いでしまわないで、食べるのに従って2〜3回に分けましょう。最後まで薄まらず、おいしくいただけます。食べ方の基本はおいしさの基本。さあ、ごゆっくりどうぞ。

そばそばはいつから。
学名ファゴピラム・エスキュレンタム、蓼科蕎麦属の一年生草木。そばを学術的に表現するとこうなります。もちろんこれは、植物としての、蕎麦の名前。私達がツルツルと啜っている、江戸情緒豊かなそばの正式名称は、蕎麦切(そばきり)。そばがきなどに対しての「細く切られたもの」という意味です。植物としての蕎麦が日本で栽培され始めたのは、なんと約3000年前の縄文晩期のこと。植物としての蕎麦については養老6年〈722〉の「続日本紀」に書かれているのが最古のものです。また、蕎麦切という食べ方が出回ったのが約370年前の慶長年間。とにかく、日本人とそばのつき合いには、随分と長く、深いものがあるといえましょう。

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